善人なのか。
己の刃が斬った相手は「鬼」なのか「神」なのか。――それとも人の娘なのか。
微動だにしない骸の髪は金色から徐々に黒へと移り変わっていった。死して尚姿を変えるそれはおおよそ人とは思えぬもの。
ならば人を斬ったわけではない。
刀を提げた手が震えているのは歓喜からか。解放を喜ぶ胸の内の声か。
刀を塗らしている血はいつの間にか乾いていた。一体、幾らの時をこうして佇んでいたのだろう。そしてそれは何故に。
目の前の骸の正体すら曖昧と化す。
――ならばこの地を去ろう。
普通の人間としてこれからは生きていこう。それでももしものことがあれば、再びこの刀を手にすることを誓おう。
その人は血を拭わずに刀を鞘に収め、静かに草履の音を響かせた。