理由を誰かが問うと、先見で出たまで、と知羽は短く答えただけだった。当然葛はそれに戸惑った。
知羽のことは嫌いではない。いや、好きも嫌いも、ない。王なのだ。その者に、己の妻になれと言われ、戸惑わないわけがない。それに、戸惑う理由はそれだけではなかった。
決して、その人の妻になれないのはわかっていた。決して結ばれない、叶わぬ想いだというのも理解していた。
けれど、だからといって、違う者の妻になることには抵抗があった。けれど、それで鬼の血が繁栄すると言われれば従わざるを得ない。
──それに何より、知羽様は悪い方ではない。
葛は部屋から去っていく知羽の背中を見た。長い見事な白髪は上で丁寧に纏められている。
上質の絹で織った着物も、知羽の真っ白な肌によく映える。
従わざるを得ない。
とはいえ、芽生えた想いが簡単に消えることがないのもまた事実。葛は目を閉じて、そのときを待った。
どれ程経ったか。恐らく、幾らの時も経っていないだろう。鳥の羽ばたく音が耳に届いた。
葛は羽根の一振りで、廊下へと出た。すると、一羽の羽鴉が葛を目指して飛んできた。優雅な羽根の羽ばたきは、何度見ても不思議なものだ。
これは、酉嶋が従える不思議な鳥だ。
酉嶋は人間にも関わらず、紙から羽鴉を産み出すことが出来た。そしてこうして、使いに出すのだ。
酉嶋は花雪姫の恩恵を強く受けている。いつか聞いたことのあることだ。だからこそ、こうして、不思議な力を使えるのだ、と。

