「御初に御目に掛かります。私(わたくし)、花神姫でありまして、今の名を早雪、と申します」

少女は立ち上がり、丁寧に頭を下げたら。しかし、あくまでである、であり、恭しく出はない。

少女は顔を上げると、真っ直ぐに背筋を伸ばし、雪弥の瞳を見てきた。少女──早雪は小柄な雪弥より十センチ近く背が高く、少しばかり見下ろされている印象を受ける。

「鬼頭、雪弥と申します」

雪弥は声が掠れそうになるのを感じた。威圧的。早雪から感じ取れるものはそれだった。

人間と鬼。

しかし、彼女は人間であり、神なのだ。早雪の全身からはそれをひしひしと感じさせるものを放っていた。それと同時に、己の魂が震えていることに気付いた。

「雪弥様。お願いがございます」

早雪は凛と立ったまま、静かな、けれど威厳を感じされる口調で続けた。

「白瀬様に会わせて頂きたく思います」

彼女の口調は、現代の少女のものではない。嘗ての、姫としての、神としての口調。けれどそれは、雪弥の知るものではない、と思った。

──どうして?

知るはずもないのは当たり前なのに。

雪弥は混乱を抱えながら、ちらりと緋川に視線を向けた。その隣には銀もいる。

「それらの鬼では話になりません。白瀬様の妻となる、貴女様に伺っているのです」

早雪がそう発言したとき、銀の眉がぴくりと動いたように思えた。

「……ご案内します」

雪弥が言うと、早雪は静かに頭を下げた。