「私が死んで、総て終わるならそれでいい。そう言ったとき、先輩は反対しましたよね? 私を怒りましたよね? なのに、何で先輩がそれと同じことをしようとしてるんですか?」

早雪はぽろぽろと大粒の涙を溢して言う。これ以上を銀に聞かせるわけにはいかない、と陽は早雪から離れた。

そして、きちんと座る銀の前に立った。銀はは不安と疑心の入り交じった視線を陽に向けてくる。

──早雪を死なせない為に、番人となる。

銀にはそう説明していた。勿論、それは嘘ではない。本当のことだ。でも、それしか言わなかった。

鬼神姫が死ねば、早雪も死ぬ。そう、言った。勿論、それも本当だ。だから、鬼神姫に死なれては困るのだ。

でも、それだけではなかった。

「悪ぃけど、ちょっと出ててくんねぇか。……後で、きちんと説明する」

陽が呟くように、けれど確りとした声で告げると、銀は一瞬だけ迷った素振りを見せながらも頷いてくれた。そして、静かに部屋を出る。陽の背後では、早雪の泣き声が響いていた。

ぱたん、と障子が閉まるのを確認してから陽は早雪の元へと戻った。すると、陽が手を伸ばすより先に、早雪の方から陽の小さな体へとしがみついてきた。

「先輩が死んだら、何の意味もない」

早雪は陽の胸に顔を押し付けて、泣きじゃくりながらそう言った。

「……それは、俺も同じだ。お前が死んだら、何の意味もない」
「なら、それなら何で死のうとするんですか。……わかってるのに、何で」

やっと会えたとか、そういった涙ではない。抗えない運命に対してでもない。

愛する者を理解出来ない。ただ、それだけで泣いているように見えた。