『龍様に許嫁はおられるのですか?』
訊くと、彼は緩く首を横に振った。長い漆黒の髪が舞う。
『私にはおりません。しかし、凪にはいるようで、悩んでいましたよ』
彼は悲しそうな笑みを浮かべた。
『まあ、凪様に、ですか。しかし、凪様は……』
その口に、彼は人差し指をそっと当てた。それ以上言ってはいけない、という合図だ。
『そうですね、仕方のないことです』
それは重々承知している。そう、胸の奥で何かが燻る。
目の前の人間と添いたげたい。そう願うのは罪なのだろう。
鬼と人の交わりが禁忌ということではない。自分が鬼神姫だからだ。その者が人間と交わってはいけないのだ。
わかっていても、そう簡単に想いを閉じ込めることは出来なかった。愛していると告げたかったから、伝えた。
それに対し、彼は何も答えてくれない。
それでも確かに幸せだった──。

