──龍様、龍様?
可憐な声が呼ぶ。それは自分の口から発せられているのに、自分の声ではない。それは何とも不思議な感覚だった。
──龍様、何処です?
それが愛しい者の名だというのは、胸の奥の熱さから明白だった。
『姫様。白瀬殿に叱られますよ』
愛しい者は苦笑を浮かべて言う。
『何処にいらしたのですか?』
その逞しい腕を引き寄せるように訊くと、その男は柔らかく笑った。
『花雪様が、梅をみたいと』
『梅を、ですか?』
『ええ、梅の花です。なので、お供をして参りました』
花雪の顔が脳裏に浮かんだ。大きな茶色の瞳。長く美しい黄土色の髪は大地を思わせる。白く透き通るような肌は冬空に舞う雪。唇の色はまるで桜のよう。
その総てが、大地を示し表すような娘。
美しく、聡明で、それでいて可愛らしい娘だった。
『お一人でですか?』
『いえ、景様とです。景様と梅の花を見たいと』
『相変わらず仲がおよろしいのですね。しかし、よく景様がお許しになりましたね』
『景様は渋っておられましたよ。ですが、花雪様が、そんなに私と梅の花を見たくないのかと、泣き出しまして』
『まあ……』
『嘘泣きでございましょう』
二人でくすくすと笑った。
花雪は可愛いらしく、それにいつも景が振り回されていることは知っていた。
生まれながらの許嫁。それでも二人は強く想い合っているように見えた。
──自分と白瀬とは大違いだわ。
誰かの心が呟く。

