鬼神姫(仮)



「でも、ちょっと待ってくれ」

銀が小さな声で発言した。

「何ですか?」

それに凪が答える。

「……最後の契約だけおかしくねぇか? 何度でも手にかける、て」
「それは、この地の言葉です。手にかける──即ち、その手を取る、ということです」

雪弥もその言葉を知らなかった。手にかける、つまり、殺すということだと思っていた。

「ですから、彼等番人達は、鬼神姫と永久に続く契約を交わし、そして事が済めばそれを煩わしく思ったのです」

凪は淡々と語った。

確かに、力が欲しかったのは一時的なもの。契約すら望んだことではない。用が済めばそれは柵や足枷に過ぎないのだ。

雪弥はそう考えて俯いた。

人間との共存という希望を見出だした気でいた。けれどそれは間違いだった。

いつの世も、共存など人間は望んでいないのだ。それを思い知らされた気分だった。

「……西の番人は、それを未だに望んでるってことか?」

銀が少しはがり凪に詰め寄るように訊く。雪弥はそれに僅かに顔を上げた。凪は緋鬼でもあり──西の番人でもあるのだから。

「恐らく」

これらのことが雪弥や銀に告げられなかったことは明白だった。そこには各々の思惑がある。

雪弥に聞かせれば、そこには絶望しかない。

銀達番人に聞かせれば、そこには希望がある。

利害が一致しないのだ。

──このことを、他の番人達は知っているのだろうか。

雪弥はそこに思いを巡らせた。もし、そうであるならば、陽や巴はどちらとして考えているのだろうか。

契約を護り続ける為に此処にいるのか。それとも、柵を断ち切る為に、此処にいるのか。

緋川も総てを知っているはずだ。それでも彼等を集めたのは、鬼の血を護る為なのだろう。

番人達を利用し、雪弥を力ずくにでも護らせる為。