鬼神姫(仮)



「白瀬様は反対なさいました。人間に協力すれば、良くないことが起こる、と。けれど、葛姫様はそれを聞き入れず、四人の人間に力を与えたのです。そして、彼等は花雪様を見事助け出しました」

一人の人間の娘を助ける為に、鬼に力を乞い、救出した。まるで、お伽噺のような出来事だ。

しかし、鬼という存在自体、普通の人間からしたらお伽噺のようなものだろう。なので、数百年前のその出来事も不思議なことではない。

「そして、一人の番人が用済みになった葛姫様を殺したのです」
「何の為に?」

口を開いたのは銀だった。

「だって、元々共存していたなら、殺す必要なんてないだろ。別に、此処の鬼等が何かするってわけでもねぇんだし。なのに、何で殺したりしたんだよ」

銀は怒りを僅かに表している。

──酷い話だとでも思ったのか。

雪弥は横目で銀を見た。

「……契約です」

凪は銀を宥めるかのように柔らかい声を出した。殺したのが自分の祖先だからか。何か罰が悪そうにしている。

「人間達は、葛姫様から力を与えてもらう為に契約を交わしたのです。その契りは血より濃く、体内に根付くものでした」

凪はそう言うと、ボタンシャツの服を肌蹴させた。厚い胸板には、斜めに入った切り傷がある。

それはまるで刃物で切ったかのようなものだ。

「貴方達にもこういった傷があるはずです」

凪に言われ、銀がTシャツを脱いだ。すると、その肩には凪と同じような傷が走っている。

斜めに、切られたかのような傷。

「人間達は各々身体に切れ目を入れ、そこに葛姫様の血に濡らした口付けを得ました。それが、力を与えられると同時に、契りを交わすことになるのです」

そこで初めて、契約が成立する。

雪弥の中で何かが弾け、口内に血の味が広がった。