「あ……」

銀は段々と明るくなる空を眺めながら、とある存在を思い出した。冷たい風が頬を軽く撫で、空は美しい色に染まっている。何とも形容し難い空の色は、一体何色と表せばいいのか。

そんな美しい空を見ていたら、美しい存在を思い出したのだ。

知羽だ。

知羽なら、全てを知っているように思えた。その根拠は何もない。彼から何かを聞いた覚えもない。

けれど、漠然と、彼なら全てを知っていると思ったのだ。

その刹那、とある映像が脳に流れ込んできた。

──美しい知羽。その髪は今のように下ろされてはおらず、後頭部で纏められている。顔立ちは同じなのに、顔付きが違うように感じられた。

『お前らの願いのせいだ』

知羽は声を荒げている。

『お前らが、お前らが……、たかが人間の命などを乞うから。だから、こんな先が見えるのだっ。金輪際、葛に近寄るなっ』

その形相はまさに『鬼』。

纏められた髪を乱し、肩を上下させ、眉を吊り上げている。

──一体、これは何なのか。

それと同時に、胸に憎悪が渦巻く。何処から湧くのか。

銀は苦しくなる胸を押さえた。何故、こんなにも苦しいのか。──何故、こんなにも悲しいのか。

誰に対して、こんな苦しさを抱いているというのか。

銀は胸を押さえたまま、廊下に蹲った。呼吸をすることさえ困難に思える。