あの少女の為。

陽はそれだけ言った。

あの少女の命を救う為に、番人に戻る。陽は強く決意した瞳でそう言っていた。

だけれど、銀はその少女を知らなかった。

幼い頃から陽のことは知っていた。けれど、その少女のことは顔も名前も知らなかった。彼女は一体、陽にとってどんな存在なのだろう。

陽のことを先輩、と呼ぶ少女。銀は彼女の泣き顔しか知らなかった。

知る必要がある。

なのに、雪弥はそれを知らないと言った。ならば、きっと全てを知っているであろう陽に訊くのが正解なのだろうが、それは憚られた。いや、憚られたのではない。訊いたとて、教えてくれないことはわかっているからだ。

恐らく、陽の口からは何も教えてはもらえないだろう。

此処に銀を連れてきたのは陽だ。転校の手続きまで勝手にして。けれど、陽はそれを申し訳なく思っているだろうことは明白だった。

理由は、完全に、それは陽の身勝手な願い故にだからだろう。その為に、銀を巻き込んでいることを、陽は心苦しくも思っているのだろう。

とはいえ、そこまでしても貫きたい想いと願い。肩を並べて他人の運命に逆らうならば、それを知るべきだと思った。

そして、それは、過去の出来事と関係しているように思えたのだ。