鬼神姫(仮)

雪弥は幾度となく、鬼神姫などではなければよかったと思った。例え、人間でなく鬼でも、鬼神姫でなければよかった、と。

そうしたら、もっと普通に過ごせた。人間に混じって暮らしている鬼のようにもなれたかもしれない。人間の友達だって出来たかもしれない。

こんなふうに、命の終わりを知らされることもなかった。

でもそれは、全てもしも、のことだ。僅かにでもある可能性の話でもない。どうにもならないことなのだ。

──だったら、真正面から向き合うしかない。

雪弥は一とある襖の前で足を止めた。その襖を開ければ、地下へと続く階段がある。もしかして、と思い気配を嗅ぎながら襖に手を掛けた。だけれど心配は無用に終わった。

襖に結界が張られているかもしれないと思ったがそれは要らぬ危惧だった。

雪弥はそれに小さく安堵し、襖を開けた。小さな灯りが壁に点在していて、下りることに少し恐怖を感じる。

足袋というのは滑り易い。

雪弥は慎重に一段ずつ、ゆっくりと階段を下りていった。

「待っていたよ」

階段を下り終えたところで声がした。

階段の先には広間があり、奥には御簾が下がっている。そしてその声は下げられた御簾の向こうから聞こえた。

「私が来ることを?」

「挨拶もなしなのかよ」

御簾の向こうにいる鬼は不満そうな声を洩らす。

「失礼致しました。しかし、何れ夫婦となる身、畏まった態度も必要ないかと」

雪弥は御簾の前まで赴き、腰を下ろした。