ほのかを抱きしめると、不快な感情がいっぺんにこっちに流れてきた。なんだこれは?

思わず顔をしかめる。すごく嫌なことがあって混乱しているようだった。

整理されていないどす黒く渦巻く感情の流れがつかめず、

俺までそれに呑まれて混乱しても困るので一端ほのかの感情を遮断した。


俺には物心ついたときから人の心を読むことができる力がある。

それはすべての人間に対してではなかった。そして、ある時までほのかの心も

読むことはできなかったのだが…

今はこうやって自由に彼女の内側を覗くことができる。


…何があったのかを確かめるのはまた後、落ち着いてからでもいい。

俺は抱擁をゆるめ、そのまま彼女を抱き上げた。

その時ほのかのはいていたスリッパが片方その場に落ちた。

この時彼女の何かも一緒に落ちてしまったのかもしれない…

でもそれを見て見ぬふりをして俺は、そのままほのかを抱えてエレベーターの方に向かい

乗りこんだ。ほのかは何も言わずに俺のなすがままになっていた。


実はほのかを俺の部屋に上げたことは…

今まで一度もなかった。

玄関でやり取りをしたことは何度かあるにはあったが…

俺は彼女をこの家に上げて何もしないほど、自分の理性を信じていなかった。

それでもこの時俺は躊躇することもなく彼女を自分の部屋に連れ帰った。