突如始まった2人の譲らぬ戦いに、透理は箸を咥えたまま、ぽかん、となった。


普段ならここで玉若の教育的指導が入るのだが、今の玉若はそれどころではないらしい。


「甘い⁉玉若のどこが僕に甘いって言うんだい⁉僕は玉若に手酷くしごかれた記憶しかないよ⁉」

「何を言うか⁉葛葉亡き後、そなたに術を教えたのは誰ぞ⁉」

「父上だっ!」

「その父を亡くし、途方に暮れたそなたを拾って育てたのは妾ぞ!」

「そんなの頼んでない!」


もはや2人の舌戦は透理が割り込む余地はない。


黙って経過を見守る他、透理にできることはない。


話からするに、清明は子供時代に両親を亡くし、その後玉若に育てられた…らしい、ということだけは理解した透理。


あ、あと。


清明って玉ちゃんには随分と甘えるんだなぁ……。


と思った。


もちろんそんな事を口にすれば、火の粉がこちらに飛び火してくるのは明白。


故に透理は、未だ舌戦を続ける2人を他所に、粛々と朝餉の消化に務めた。


大人の理屈も事情も、子供が下手に首を突っ込んではいけないのである。


清明と玉ちゃんを競わせてはいけない、と頭に禁則事項として刻んだ。


しかし、見て見ぬ振りというのもなかなかに難しいものだな、と思う透理だった。