その男は、始業式とともにやってきた。





高校2年に進級するまえの春休み。



あたしが心の底から願ったのは、どうか今年の担任は男じゃありませんように、だった。



高1の1年間は最悪だった。




男で、それも下っ腹の出たキタナイ親父の代名詞、内藤が担任だったから。



去年1年間が最低最悪なものだったんだから、今年こそはふつうに女の先生が担任でもいいんじゃないかな。



だって男がきたら、ふつう次は女でしょう。



だからお願い、かみさま、どうか今年こそは女の先生が担任になりますように。



春休みの間中、それこそ毎晩のようにベッドの中で呟いたあたしの願い事は、始業式の日にガラガラとくずれていった。



「……なんで今年も男なの……」



体育館にあるステージで、その男はにこにこ笑って

『新任のあいさつ』

なんていうツマラナイものを語った。




あたしのいやそうな声なんて誰も聞いてない。



そりゃそうだ。



クラスごとに整列した列の中で、あたしのクラスの女の子たちはみんな、ステージに立っている新しい担任のセンセイに夢中だったんだから。




女子高でまわりがほとんど女ばかりの環境だから、ちょっとでも若くてカッコイイ先生が担任なら、その年の1年間がうるおうとでも思ってるのか。



たぶん、まちがいなく。


ぜったいそう思ってる。




だってまわりからは「カッコイイ」とか

「3組はいいなー」とかいう

小さな声が聞こえてきてる。



このたくさんの生徒が集まった体育館の中で、ステージに立ってる男が担任であることにため息をついたのは、きっとあたしぐらいだろう。




高校2年生なりたて、長谷川未来。



所属、2年3組。




あたしのクラスの担任は、あろうことか男の、パッと見はカッコイイらしい、新任の教師が担当することになりました。