「ねえ、ところで一体何時勉強してたの?」

取り繕ってそう聞いた。
考えてみれば不思議だった。

一緒に暮らしていた時、アイツは昼頃には戻っていたのだ。大学は午前中だけの授業ってことはあり得るはずもないから。


「実は夜間大学なんだ。授業料も割安だしね。第二部とも言うんだ。五年制のと四年で卒業出来るのもある。俺は四年制で今年卒業予定だったんだ。それに、クラブはラストに入れるしね。だからそのまま仮眠させてもらったんだ」

夜間大学と聞いて、私はアイツが勉強が本当に好きなんだと思った。
だからやはり、卒業させて遣りたいと思ったんだ。


「でもそれっておかしくない。クリスマスイブの時はお店に居たでしょう?」


「おいおい。肝心なこと忘れてないか? みさとは冬休みで此方に来たんだろ? 大学だって休みだよ。今度はおっちょこちょいまで加わったか?」
アイツはそう言いながら笑った。




 結局。
クリスマスイブの日にと同時刻に発車する列車で田舎に帰ることになった。
きっと又、午前零時少し前に最寄りの駅には着くだろう。
私は目まぐるしい一日を振り返り、そっとため息を吐いた。

それと同時に、安堵していた。
社長との関係や、オーナーとの関係が拗れたからホストを辞めた訳ではないと知ったから。
ましてや、私のせいでもないと知ったから……

私は安心して、不覚にも居眠りをしていた。


ふと、目が覚めて驚いた。アイツの顔が目の前にあったからだった。

アイツも相当びっくりしたようで、慌てて視線を外した。


勘だけど……
とか言って、本当は願望なんだけど。

アイツはキスをしようとしていたのではないのだろうか?

あの慌てぶりは尋常ではないと思ったんだ。




 明日から新学期。
でもきっとバレることなく卒業出来るだろう。
私は神野みさとのままでジンの奥さんになったのだから。


でも本当のことを知ったら、みんなきっと驚くだろうな。

私の旦那様は、歌舞伎町の元ナンバーワンホストだったのだから。


アイツは私に約束してくれた。
卒論だけは仕上げて提出すると――。

私はそれだけで満足していた。