「ボーイと言うのはホストの身の回りのお世話や、お客様にドリンクを提供する裏方の仕事だよ。昔は引退したホストの人がやっていたらしいけど、今は見習いも兼ねているようだ」

アイツも社長に合わせるように話し出した。


「彼は十八歳だったから、何とか土日だけ働けたの。お酒の相手は出来ないけどね」


「でも、キツイの飲まされたんだ。お陰で急性アルコール中毒にさせられたよ。大学にも酒を飲まされたこと知られて……」

アイツは胃の辺りをおさえた。


「ノンアルコールのドリンクだったから一気飲みしちゃって」




 「私知らなかったわ。オーナーに厳重注意ね」
社長が言うと、アイツは首を振った。


「オーナー、知らないんです。悪戯で仕掛けられたので」


「悪戯?」


「誰が入れか解らないんです。ソーダにテキーラか何か混ぜられて……気が付いたら病院だった」

アイツの話を聞いていたら泣けてきた。
そんな思いまでして頑張ってきたのに、私のせいで辞めたんだと思って。


「みさとのせいじゃないよ。俺が彼処を辞めたのは汚い陰謀のせいだからね」

陰謀とアイツは言った。
あの年配の女性が、脳裏を掠めた。




 「ところで、ねえジン。大学はちゃんと卒業したの?」

社長の言葉に私は戸惑った。


「実は今年卒業の予定でした。単位は獲得してあります。後は卒論だけですが、もういいか……なんて」


「そんなのダメー!!」
私は大声を張り上げた。


知らなかった。
アイツが大学生だってこと。

本当に何も知らなかったんだ。

まして、卒業を目の前にして、退学するなんてことまで考えていたなんて。


「行って。ちゃんと大学卒業して。私のために諦めたなんてイヤだ」

私は号泣した。
私だって今年卒業する。
勉強は出来なくても何とか頑張ってきた。
でも高校と大学は違う。
雲泥の差……
って言うのかな?
物凄く待遇も違うはずだから。


『父は今、東南アジア諸国を回りながら技術者を育成しているんだ。心配すると思って、何も話さないで出向したんだよ。勿論俺も一緒に。でも俺は大学に行くために帰ってきたんだ』

私が尋ねると……
アイツはそう言っていた。
私はただ受け流していただけなんだろうか?