アイツにもう一度抱いてもらいたかった。
でも自分から言い出せはしない。


(こう言うの、ジレンマって言うのかな? 二つの感情がコントロール出来なくて……確かそんな解説だったな)

それでも、私は身悶えながらその試練に打ち勝つために踏ん張った。

でも結局私は負けた。
アイツのキスの長さに遣られた。

もう、はがゆいったらありゃしない。

でもきっと、それがアイツの作戦なのだ。


もうすでに、焦れったいのを通り越していた。




 私の限界は此処までだった。


アイツの名前を呼びたかった。
でも私はアイツの名前すら知らない。

さっき役場で戸籍謄本は見た。
だから其処に書いてあった名前も見たはずなのに、記憶がない。
あまりにも舞い上がっていて、全部忘れてしまったんだ。


「ジン……お願い抱いて」

だから仕方なく、私はとうとうその名前と言葉を口にした。


アイツの目が勝ち誇ったように輝く。

それでも良かった。
私はやっとアイツに素直になれたのだから……

もしかしたら、アイツの仕返しかも知れない。
さっき私がイライラさせたから。
でもアイツはそんな肝っ玉が小さい人間じゃない。
私はアイツに抱かれることを想像しながら苦笑いをしていた。




 「月が綺麗だね」
それでもアイツははぐらかす。


(ん、もうー!?)
私の身体が煮えたぎる。


「知ってる? 『月が綺麗』って言うのは、愛してるって意味なんだって。ホラ見てごらん」
アイツにつられて窓の外に目をやると、月が二人を煌々と照らしていた。


私は急に恥ずかしくなった。
幾ら何でも、私からアイツを求めるなんて……
考えれば考えるほど、熱が顔に集中する。


「綺麗だ。みさとは月以上に綺麗だ」

アイツはそう言いながらそっと、髪を撫でる。

焦れったくなった私はアイツ見つめた。


「みさと、覚悟は出来てる?」


「覚悟!?」


「そう俺にむちゃくちゃ愛される覚悟……」

アイツを見ると、恥ずかしそうにしていた。


「うん、出来てる」

本当は怖い。
物凄く怖い。
又あのハロウィンの悪夢に襲われたら……
なんて考えていた。


「大丈夫、みさとはただ俺だけを信じればいい」

私の心を見透かし……
愛の言葉を囁きながらアイツは私に二度目の愛をくれた。