無垢・Age17

 「此処から出発だ」
アイツが力強く言った。


「まだ間に合うな」
アイツはそう言いながら太陽を気にしていた。
アイツは私を促し、乗船させた。


「クリスマスは、日没までだって知ってた?」

その問に頷く。


「だったら判るね。俺はクリスマス中にみさとが欲しい」
アイツはそう言って、船に積もった雪を払った。




 アイツと一緒に乗り込んだ漁船。
私は嬉しさのあまり興奮していた。

アイツが上着のボタンを外す。
私はそれを受け取り、漁船の底に敷いてその上に横たわった。
そしてアイツの指が私に触れてくるのを待った。


でも私はあのハロウィンの出来事を思い出し震え出した。

呼吸困難。
全身痙攣。

それはパニック障害を通り越していた。

私は何時しかアイツに抱いてもらえる日を夢にみていたのだ。

思いがずに叶おうとした瞬間に、体が硬直してしまったのだった。
嬉しさのあまりに……




 頭の中は真っ白だった。

何をどうしたら良いのか解らなくて、途方に暮れていた。


口の中が異常に渇き、手が小刻みに震える。

混乱した頭を整理出来ない。

そんな時もアイツはただ抱き締めていてくれた。

そんな行為が嬉しくて、私は救いの手をアイツに向けようとした。

その時気付いた。

手にも力が入らない事実を。


私は大好きなアイツも抱き締めることも出来なくなっていたのだ。




 全身を痙攣させたままだと、アイツにも迷惑をかける。
私はただただ申し訳なく思っていた。


それでも息は苦しい。
私は必死にビニール袋を探した。

歌舞伎町で掌で呼吸したことを思い出す。
私は仕方なく、手を口元に運ぼうとした。

でもその手をアイツは握り締め、私の体の上に覆い被さってきた。

それはあの時と同じ、人工呼吸のマウスツーマウスだった。


(あ、又……えっ、又って? 前にもあったの?)


アイツの息が唇を通し体の奥底へと入ってくる。

その瞬間。
歌舞伎町での記憶と共に、私の意識もよみがえった。

私は生き返ったのだ。