「ご注文はお決まりになりましたか?」
ウェイターが注文伺いに来る。


「あ、ケーキセットを二つお願いします。……クリスマスだからね」
私はアイツの好みを知らない。
だから……
クリスマスだと言うことにして大好きな洋菓子をオーダーしたのだ。


数分後。
私は身を縮めるように運ばれてきたショートケーキを口に運んだ。


「メリークリスマス」
アイツが耳元で小声で言う。


「メリークリスマス」
私も慌てて追々した。




 周りを意識して無言になる二人。

私は席を立ち、アイツの前を抜けレジに行った。

ワゴンの中にクリスマスセットが置いてあるかも知れないと思ったからだった。

私は早速それを購入し、アイツの待っている席へと急いだ。

すぐに中身を取り出し身に付ける。

赤い帽子にひげ。
にわかサンタが出来上がった。

私は精一杯おどけてみせた。
本当は、そんなことするためではない。
私はアイツを見つめていたかったのだ。


辛い初恋に本当の終止符を打つために……

今だけ……
この瞬間だけでも恋人気分を満喫したかったんだ。
サンタクロースのお姉ちゃんじゃカッコつかないけど。


私はアイツがどうして此処まで付いて来たのか真意が判らずにいた。

列車の中ではそんなやり取りもしないで、恥ずかしくて俯いていたのだった。

あのドキドキ。
キュンキユンするほどのトキメキ。
私は未だ忘れられずに苦しんでいた。
だから変装したのだ。
本当の心を隠すために。