タクシーはファミレス入り口の前に横付けした。

親切心だったのかもしれない。
でも私は、店内の見える位置に移動した。


アイツが不思議そうな顔をして見ている。

私はそっと手招きをして、アイツを呼んだ。


「ごめんなさい。知り合いが居ないかどうか見たくて」

私の言葉で全てを察したようで、アイツも店内に目をやった。




 窓越しに見える店内は、クリスマスイブを其処で過ごそうとしている人達でほぼ満席だった。


「此処しか無いのよ、マジで」

私はそう言いながらも、見知った顔がないかどうか再チェックしていた。

噂話でも立てられたらマズイと思ったからだった。


例え本当の兄弟だったとしても、独身女性が夜中にデートしては格好の話題提供になつてしまうのだ。
私の田舎はそんな所だった。


「いらっしゃいませ」
ドアを開けた瞬間に声を掛ける店員。

私は慌ててアイツの背後に回った。


歌舞伎町の、お堅いホストクラブのナンバーワンだけのことはある。

そのガッシリと鍛え上げられた肉体は、私の存在さえも消してくれた。


私は昨日、美魔女社長にモデルにならないかと誘われた。
実は結構高身長だったのだ。


だから私はそのままの状態で一番近い窓際の席に座った。


(良かった気付かれなくて)

ホッとしたのか、溜め息になった。

私はそれでも、見知った顔がないかどうかを俯きながら見ていた。




 私は窓側に座った。
窓越しに見える雪を眺めてみたかったからだ。

雪なんかじゃない。
本当に見つめていたいのは、隣の席にいるアイツだったのに……

でもすぐにその愚かな行為に気付いた。

もしアイツが窓際だったら、誰に遠慮することもなく見つめ続けられたのに……


(何てバカなことしたんだろ?)
私は私自身に腹を立てていた。

その上、もしこの窓の向こうに知人が通りすぎたなら……

そう考えた途端に怖くなった。
アイツに……
兄貴に恋をしていることがバレバレになるかも知れないと思った。