結局田舎の近くの駅に着いたのは午前零時少し前だった。


(とりあえず一マスで済んで良かった)

私は青春十八切符が二回分残ったことを喜んだ。
アイツが又使えると思っていたのだ。

どうして田舎に帰る気になったのか解らないから、東京へ戻るものだとばかり考えていたのだ。


(でもなんで付いて来たのだろう?)

私はずっと隣の座席に居ながら、アイツの心理を図りかねていたのだ。




 私だけなら今直ぐに家に帰れる。

でもアイツと二人だからそうはいかない。

こんな夜更けに母を驚かす訳にはいかないから。


幸い母は、役所の仕事納めまでは東京にいることを承知してくれていた。

兄貴の友人のマンションが就活の拠点になることも納得した上で送り出してくれていたのだ。




 私はタクシーで隣町のファミレスに行こうと駅前へ向かった。


でも駅舎から一歩出て驚いた。
雪が……
舞っていた。
まるで私の到着に合わせてプレゼントしてくるたかのように。


「ホワイトクリスマスになったね」
何時の間にか私の背後に回ったアイツの声がする。


(ヤバい。こんなトコ誰かに見られたら……)
私はそう判断して身を屈めた。


その時タクシーのドアが開く。
私はアイツを避けるように車内に逃げ込んだ。


「あの、ファミレスに行ってください」


「どうして其処なの?」


「二十四時間やっているお店は其処位なの。隣町だけどね」

私の返事を聞いて、運転手はウインカーを出して隣町方面へとハンドルをきった。


(あ、だったら手前の駅の方が近かった)

私はあの二人だけのクリスマスエキスプレスの中で、時計ばかり気にしていた。
何時、午前零時になるか判らないからハラハラドキドキしながら乗ったいたのだ。




 でもタクシーに乗ってから気付いたことがあった。


(かなりヤバいかもしれない)

私の通っている高校はその街にあったのだ。


(もし見つかったらどうしよう。あーん、私の馬鹿)

頭の中がごちゃごちゃだった。
何が何だか判らないままで私は本当はここにいたのだった。