「調べたのか? そうだよ。其所までして俺を追い出そうとしてたのさ。だからみさとが悪い訳じゃないんだよ」
アイツはそう言いながら窓越しに駅のホームを見つめた。


「以前、遠距離恋愛をしている恋人達がクリスマスに電車に乗ってデート現場に向かったんだ。クリスマスエクスプレスのキャッチフレーズに憧れて」


「昔から恋人達にとってクリスマスは神聖だったのね」


「新幹線のコマーシャルだったけど、これは……」
アイツは列車の天井を見ながら言った。


「これは二人だけのクリスマスエクスプレスだ」
と――。




 今から十年ほど前にあったというクリスマスエクスプレス。

今日此処に復活する。
私とアイツだけのクリスマスエクスプレスとなって。


でも私達は……
恋人同士ではない。
私は何故アイツがそんなことを言い出したのか判らずに駅の構内を見ていた。
本当はアイツを見つめていたかった。
でも恥ずかしくて……
所謂照れ隠しだったのだ。




 『二人だけのクリスマスエキスプレス』
アイツが何でそんなことを言ったのかは判らない。

でも私は嬉しい。
痛み抱えたままで田舎に帰るしかないと思っていた。

母にどんな顔をしたら良いのかも解らなかった。


だけど今疑問が沸き上がる。


何故アイツが此処に居るのか判らないのだ。

これから数時間。
私はアイツと隣り合わせで座っていなくてはならない。

此処にいなくてはならない。

正直言ってそれが一番怖い。


私は醜態をさらけ出しそうなのだ。


『この子は何!!』


『アンタ何様のつもり!!』

歌舞伎町の路上で言われた声を思い出し、私は又突然震え上がった。


『妹だよ。妹だったんだ。大好きなのに……』

アイツの前で言ってしまった言葉。
もう取り繕うことなんか出来ない。

出来っこない。

だってアイツはみんなの前で、私のことを妹だと言ったんだ。
兄弟って認めたんだよ。


だから今更何なんだ。

何故此処に居るの?


私は嬉しいくせに、悪いことばかり考えていた。


『お騒がせして申し訳ございません。この子は私の妹です』

アイツはその場を取り繕うために私を妹だと言っていた。


(でもそれだけ? 本当の妹だと知っていたからだよね?)

私の心は爆発寸前だった。

これ以上耐えられないほどに。