さっき私のいた席まで戻って驚いた。
例の拾った週刊誌が座席に置いたままだったのだ。
アイツに気付かれないようにそっとボストンバックの下に隠した。


(疑惑のチェリーボーイか? でもその部分、何も書いてなかったんだ。チェリーボーイって一体何なんだろう?)




 「仕事は?」

青春十八切符を受け取りながら、一番気になったことを聞いた。


「辞めてきた」
アイツは苦しそうにそう言った。
走ったので息が上がったからだった。


「私のせい?」

それでも私は聞いた。
一番聞かなくてはいけないことを。


その言葉にアイツは首を振った。


それを見ながら、ホッとする。
それでもドキドキが収まらない。


(きっと私のせいだ。そうに決まってる)

私はアイツの優しさが本当は怖くて仕方なかったのだ。




 「俺のことをジンと呼んだ人は大得意先なんだ。その人を怒らせたから……、責任取って辞めてきた」


「やはり私のせいじゃない」


「違う!!」

アイツは少し声を荒げた。
それは私を庇うためだった。


「みさとのせいじゃないよ。こうなるように前々から仕掛けられていたからね」

アイツはそう言いながら例の週刊誌をバックから取り出した。


「えっ!?」
私は慌ててさっき隠した週刊誌をボストンバックの下から取り出した。


アイツが目を丸くした。


「読んだの?」

その言葉に頷いた。


「じゃあ解っているね。此処に書かれていることは全てデタラメだ。俺のことをリークしたのはあの人だ」


「……」


「ホストには永久指名権ってのがあって、一度付いたらずっとそのホストを指名しなくてはいけないそうだ。あの人は前任者にスキャンダルをでっち上げた。そのお陰で俺がナンバーワンになれたんだ」

アイツは週刊誌を丸めてギュッと握りしめた。


「だからみさとのせいじゃない……」

苦しそうな表情を浮かべながらアイツが唇を噛む。

アイツがみさとと呼び捨てにする度に胸の奥がキューンと痛む。


(妹だと思っているから言えるんだよね?)
私は落ち込んでいた。
それでも必死に取り繕ろうとしていた。




 「さっきのキャッチだってきっと、あの店を陥れるためだったのかも知れないんだ」


「あ、だから敢えて禁止行為をしたのか?」
咄嗟に出た言葉に私は慌てふためいた。

アイツも私の発言に驚いたようだった。