「だから、電車で眠てる間に財布が無くなっていたんだってば」
私は遂に叫んでいた。


「あ、財布ね。貴女はさっきはバック、バックって言ってたよ」


「え? バック?」

私はバックから財布が無くなっていたと言えなくて、バックが無くなったって言っていようだ。
でもバックなら私の脇腹に収まっている。
だからキョトンとしていたのだ。


「じゃあ被害届け書きますから、その財布の特徴を詳しく教えてください」

そう前置きして、何かの書類を出して来た。

私は財布の形などを思い出しながら口にしていた。




 「キャラクターの財布で、えーと、首に掛けられるように紐が付いてます」


「色は?」


「紐も財布も黒です」


「じゃあ、ちょうどそんな感じですね」

お巡りさんはそう言いながら、私の首を指差した。


「はい、ちょうどこんな感じです」

そう言いながら私は、何気に紐を触った。


(ん!?)
その瞬間。
財布を首に掛けた事実を思い出した。

恐る恐るその紐を引くと、コートの襟の下からその財布が顔を出した。


「す、すいませんでした。財布此処にありました!!」


アイツに笑われる。
咄嗟にそう思った。


「失礼しました!!」
私は大慌てで交番を飛び出していた。




 顔から火が吹き出しているようだった。

掌でバタバタ扇ぎ、近くのショーウィンドーを覗いた。
其処には真っ赤になった私が映っていた。


(アイツに何て言おう? 正直に告白しようかな? 今日ヘマやっちゃた、とかね)

昨日眠れなかった。
アイツが相手にしている女性が気になって。

どんな風に接客しているのだろう?
そんなことばかり考えて。


ナンバーワンホストの仕事って何?

女性を愛し、愛されること?

高価なシャンパンを勧めること?

女性をもてあそびお金をふんだくること?

判らないよ。
ねえ、早く此処に来て私に教えて。
そして心配要らないって言って。




 私は何時しか歌舞伎町にいた。

アイツは結局、マンションに戻って来なかった。


「もしかしたら本当に引っ越ししたのかな?」
不安が口に出る。
だから、私はアイツの影を其処に求めていたのだ。

実はこっそり、携帯のサイトでアイツの働いているホストクラブの名前を調べていたのだ。