平成九年十二月。
気候変動枠組み条約締約国会議。
所謂京都議定書が調印される。
これにより日本は平成二十四年までに平成二年を百%として九十四%。
つまりマイナス六%に削減しなくてはいけないのだ。


そのために排気ガス規制が掛けられ、メーカーは競ってクリーンエンジンを目指した訳なのだ。


京都議定書の期限が過ぎた今、その数値が達成されたかどうかは判らない。

でもそのお陰で前より過ごし易くはなったようだ。





 以前東京は光科学スモッグで覆われていたと聞く。

今北京で問題視されているPM何とか……


あれに匹敵する位のレベルだったらしい。

でもそれを企業の技術開発でカバーしたそうだ。

排気ガス規制法が作られた結果のらしい。
それも京都議定書の恩恵のらしいのだ。


日本の企業の技術力が、それによって大幅に上がったのは確かなようだ。




 十数年前まで、排気ガスで包まれていた大都会。
私は再びその東京へ行かざるを得なくなっていた。


それでも私嬉しい。

これで堂々、母に言い出せるからだ。

又東京に行けるからだ。

拉致から始まった、ハロウィンの悪夢を忘れた訳ではない。
思い出す度に、未だに鳥肌に覆われる体は嘘をつかない。
それでも恋しい。
東京が恋しい。
アイツが恋しい。

兄弟だと知った後も尚も燃え上がる炎を私は消す術を知らない。


本当は怖い。
怖くて仕方ない。
これ以上アイツを好きになったら、私は我慢出来なくなる。
だから余計に逢いたい。

もう、どうなっても構わない。

でも……
アイツはホストなんだ。
私の手に入れる訳がないのだ。

こんな田舎者を相手にしなくても、アイツには大勢の女性がいるに違いないのだ。


確かにあのマンションには、そんな影もなかったけどね。




 アイツは今頃、女性に甘い言葉を掛けていることだろう。
それがアイツの仕事なのだから。

ホストなんて辞めてほしかった。
でも、そんなこと言えるはずがない。

アイツはそれで生計を立てているのだから。