田舎は海に面していて、漁が中心だった。
唯一あった自動車工場が不況の煽りを受けて閉鎖に追い込まれた。

規模縮整ではなく、他の工場との合体統合だった。


エコカー減税などの公的支援が無くなったことも要因だった。

一部の取得税や重量税の免除は生き残っているのだけど……


小さな工場も沢山あったのだが、殆どが下請けやその工場に納める部品を作っていた。
だから一緒に仕事が無くなったのだった。


これで就職先が無くなった。

それだけではない。
失業者が町に溢れて、再就職先を探しているのだ。


私は本気でその自動車工場で働くつもりだった。

だから仕方なく兄貴を頼って東京に出て来たのだった。


勿論母の職場で働けばどんなに安月給でもそれなりに暮らしていける。

母と一緒に生きていける。
それも解っている。
長靴とゴム製の重いエプロンもイヤではない。
それでも普通のOLにも憧れる。
私もそんな女子高生だったのだ。




 本当は母と東京に移り住みたかった。
一生懸命働いて母に楽をさせたかった。


でも母は祖母の墓を守りたいと言った。


私はそんな母を一人にさせる訳にはいかなかったのだ。

だから田舎に戻ろうと思ったのだった。

だけどその前にやらなればいけないことがあった。
それは兄貴の様子を伺うことだった。

私は兄貴の通っている大学に行って、校門近くで出て来るのを待った。

兄貴の住むアパートの住所は解る。
でも何処に在るのかが判らない。

だから此処で見張ることが唯一の方法だったのだ。


兄貴は私の尾行にも気付かず、小さなアパートに入った後、着替えをしてすぐに出て来た。




 兄貴は新宿駅西口から北方面に向かって歩いていた。
でも其処へは行かず、暗いガード下を潜り抜けようとしていた。


(あれっ!? この先は確か、歌舞伎町?)

私はアイツの言葉を思い出して、慌てていた。


兄貴がホストクラブの横の道を曲がった。

私はそれを、ドアを開けて入ったものだと勘違いした。


(まさか!?)
私の脳裏に母の顔が浮かぶ。


(あぁ、お母さんになんて言ったら……)
私は途方にくれていた。