本当に三人は両親から産まれた兄弟のようだ。
兄貴があんなに自信を持っていったということはきっとそうなのだ。


(あー、だから私の名前を知っていたのか)

私はただ、優しい兄に恋をしていたんだ。
祖母の葬儀にアイツがいたかどうかは記憶は無い。


私は出会いを美化していただけなのか?




 私は失恋の傷みと、ハプニングで起こった未遂事件の恐怖を抱いたままで田舎に戻ることになった。


妹の私が兄を愛す。
それこそスキャンダルのネタになると思った。
私のせいで、アイツをナンバーワンの位から落とす訳にはいかないのだ。


でも私は忘れない。
兄の存在を……
同じ田舎から出て来た、ナンバーワンホストが歌舞伎町に居た事実を。


その時私は忘れようとしていた。
私の父が海で亡くなった事実を……


アイツがもし本当に兄弟だとしたら、死んだ父と暮らせるはずがないと思って。


(きっと私がしつこく聞いたら、困り果てて嘘を言ったのだろう)
私はそう思うことにした。




 私が東京に来たのは兄貴の様子見だった。

兄貴に出来た恋人。
母にはそれが嬉しいらしい。



『これでやっと肩の荷を下ろせる』
だから、そんなことばかり言うようになったんだ。

亡くなった父から預かった一人息子だからかな?

その恋人のことがどうしても知りたいからと、頼まれたのだ。


でも私が此処にいる本当の理由は、就職活動のためだった。

田舎には良い就職先無いのだ。
九月二日から解禁になった就職試験。
私はもう既に殆どの会社での就活に挑んでいたのだった。
でも私に内定は出なかったのだ。


だから、先に出て来た兄を頼ったのだ。

でも、だからこそ、今回のレイプ未遂事件は母に言えないと思ったんだ。


でも今私は揺れている。
東京は怖い。
怖過ぎる。


脳裏に、私を襲った三人の顔がよみがえった。


演技力では無い。
女性をレイプする時の厭らしい目。
涎が垂れていた口元。
そして……
どんなに抵抗しても離れなかった六本の手。


思い出す度に鳥肌に覆われる恐怖を知った身体。
こんな思いを抱えたままでは此処には住めないと思っていた。