(ヤバい。ドキドキが治まらない。こんなとこ兄貴にだけは見られたくない)

私はアイツのマンションで正解だと思った。

でも、アイツがあんな格好だから興奮したんだ。
アイツったら、鏡に全身を写して悦に入っているようなのだ。




 私は気を紛らわせようと部屋の中を見ていた。
几帳面な性格らしく、埃一つもないように整えられたリビング。


(ヤバいなぁ。これじゃ汚せない)
私は身を引き締めた。


急に田舎の生活を思い出した。
私の部屋と此処を見比べるように。


これから田舎は冬の漁が始まる。
クリスマスや正月用にカニ漁が解禁になる。

そのために、底引き網の手入れをしなくてはいけない。

窓を開けると、その独特の匂いが入ってくる。

イヤではない。
でもそれは身体に染み込む。

通っている隣町の高校では、私の存在はそれだけで判るらしい。

原因は母の仕事着と一緒に洗濯されるからだと薄々気付いていた。
でもこれと言った対策はこうじてこなかったのだ。


それでも、ファッション雑誌にも興味を示したりする。
私も普通の女子高生だった。




 ホストは女性を食い物にする。
私はマジでそう思っていた。

でもそれは一昔や二昔前の話らしい。
今ではホストの写真集も出る位……


だからアイツもそのホストと言う職業に魂を入れているらしい。


もっとも、それはあくまでも兄貴の情報だ。

アイツの実体は解らない。


でも兄貴が安心だと判断したのだ。
この人の傍なら間違いないと思った。




 部屋に着いて一番先に案内されたお風呂場に備え付けられていた、全身をチェックするための大きな鏡に驚いた。

何時も身体を鍛える、それがナンバーワンを維持するために必要なんだって。

その上、あのガラス貼りのバスルームだ。

あれは、誰に見られても恥ずかしくない体作りのためだそうだ。
常に見られていると意識することが大事らしい。


でも私はその光景に衝撃を受けて早く田舎に帰ろうと思った。
それほど、今日の出来事はショックの連続だったのだ。


アイツが紳士的に接してくれてるのを良いことに、私は其処で暫く暮らすことになった。

東京で就職して生活するための活動と、少しずつでも空気に慣れておくためだった。