俺の父親とみさとの母親は恋人同士だったんだ。
横恋慕した長男可愛いさに、二人の仲を引き裂いた祖母。

それでもみさとの父親はまだ二人を疑っていたようだ。




 みさとが生まれた時だってあまり嬉しいそうではなかった。

みんなの前では笑っていたよ。
でも陰に隠れて伯母さんに辛くあたっていたんだ。


伯父さんが男の子を欲しがっていたことは知っていた。

俺は単純にそれが原因だと思っていたんだ。


突然、そんなこんなを思い出して……

だから自暴自棄になって、あの女性の企みに乗ってしまったんだ。



 俺は意を決して、あの女性が待つホテルに向かった。

ドアをノックしたら、バスローブで出てきた。
そしてすぐにシャワー室に案内された。


チェリーを奪うことが目当てだってすぐに解った。

後悔した。
来るんじゃなかったって思った。
でももう遅かった。

俺は言いなりになるしかなかったんだ。


目を瞑れば良いと、自分に言い聞かせた。

でも、出来るもんかと本心が囁く。


こんなことだったら、俺のせいでニューハーフなった奴にくれてやれば良かったとさえ思った。

そうしていればこんな女性を相手にしなくて済んだのに……
そう思ったんだ。


あの、疑惑のチェリーボーイと書かれた週刊誌を見て驚いた。

写真はあのホテルだったんだ。
隠し撮りされていたんだよ。
でも結局、失敗したからやっぱりゲイだったってことにされたんだ。




 俺は解っていたんだ。

この女性を敵に回したら酷い目に合うことを。

俺をナンバーワンにするために、前人者がどんな目に会ったかも知ってる。


それでもイヤだった。

今更だけど……
俺はその時、其処から逃げる決意をした。


みさとのことが脳裏を掠めた?
そうかも知れない。

俺は逃げる途中でみさとのことばかり考えていた。
でもみさとは兄妹なんだって言い聞かせたてもいたんだ。


兄が妹を愛した。
それだけでもスキャンダルになる世界だ。

だから、ホストを辞めて東南アジアに戻ろうと思ったんだ。


でもそれは出来なくなった。
父が日本に帰ってくるかも知れないと解ったからだった。