出来上がった愛の鐘。
最初に鳴らしたのは橘遥さんだった。


四月一日。
エイプリルフールの日だった。
完成記念祝賀会が、自動車会社の入社式会場で執り行われた。


そう……
入社式はやはり此処だったのだ。


除幕式の幕の中で橘遥さん夫婦にはじっとしてもらっていた。

だって俺、どうしてもみさとを驚かせたいんだ。

橘遥さん達も同じ気持ちだったようだ。

だからスムーズにことは運んだんだ。




 俺とみさとさんが幕を引く。

その瞬間、二人はキスの真っ最中だった。
目が合って……
みさとが固まった。


呆気に取られてるなと思った瞬間、我が作戦の勝利を感じた。




 「もう、意地悪……」

案の定みさとさんは泣いた。
笑いながら泣いていた。


「さあ、愛の鐘を鳴らそう」

俺は笑いこけながら言った。




 俺が仕掛けたのは、橘遥さんの結婚式だったのだ。


でも一組だけでは勿体無い。

ついでに……
みさとさんと俺。俺の親父とみさとのお袋。
合計三組による合同結婚式にしてしまったのだった。




 でも更にサプライズは続いた。
大きなシートの下から現れたのは、写真スタジオだったのだ。


僅か二週間で作り上げたとは思えないほどしっかりした造りだった。

それは社長からの感謝の表れだった。

行方不明になっていた娘を探し出してくれた娘婿への恩返しだった。




 一番奥の部屋には、椅子だけ用意した。

思わず、二人は顔を合わせるだろう。


『誰かに話した?』

きっと二人同時に言うに決まっている。


話した訳ではないよ。
俺の地獄耳だ。
八年前のあの日二人が初めて結ばれたスタジオに置いてあった物と同じだ。


俺はしてはいけないことをした。
弟から、デビュー作品を借りて見たんだ。


彼女は、ヴァージンをその椅子で奪われていた。
監督に騙されて、連れて行かれたスタジオで無理矢理に……


本当なら見るのもイヤなはずなのだと思う。

でも俺は、それを敢えて置いてみたんだ。

本当は彼とその場所で結ばれたかったと知っていたから。


もう一度……
キレイだった身体になれればいい。

でも彼女はそのままで充分キレイだった。

橘遥さん夫婦は……
俺とみさとのように、永遠に愛を紡いで行くだろう。

この小さな田舎町で……