「へぇ。カカオってコロンブスが広めたんだ。会長、詳しいんですね」


 生徒会書記の新井田 透(にいだ とおる)は、シャープペンを持ったまま関心したように呟いた。


「これくらい当然だ。新井田、勉強不足だぞ」


 会長に指摘された新井田は慌てて視線を落とす。


「会長、後輩を苛めないで。新井田くんも、会長が変人なだけだから気にしなくてもいいからね」


 生徒会副会長の小山 玲仁(こやま れいじ)は、後輩を安心させるように柔らかく微笑んだ。

 しかし、生徒会長である甲賀 博巳(こうが ひろみ)は小山の言葉を不服とするように拳で机を叩いた。

 バン、と意外にも大きな音で、もうひとりの生徒会書記、笹枝 莉子(ささえだ りこ)がビクリ、と跳び跳ねる。


「変態で片付けるな!」


 「これだから…」と、甲賀は額に手を当て、首を振って悩ましげ気に息を吐き出した。


「いいか。私達がいつも食べているこのチョコレート。スーパーやコンビニに行けばズラリと並んでいるが、そこには歪んだ正義と犠牲の上にあることを知らないやつが多すぎる」


 甲賀は目の前に置いてあるアーモンドチョコレートの箱を大事に持ち上げ、悲し気に目を伏せる。