もうそれで十分だったのに…



私に奇跡が起きた…。




いつものように仕事を終え…ビルを出た。



外に出るとやたらと鼻につく歯科医院独特の臭いを感じながら…最寄り駅まで歩いていた時…


私の目の前に…信じられない人が…立っていた…。




私を見つけ…微笑みながら近づいてくる…。



私は信じられなくて…



無意識に名前を呟いていた…。



『亮太………。』


と……。




『理夜…。』


私の名前を呼ぶ亮太…。



夢なんじゃないかって思った。



だけど…

『理夜…会いたかったんだ…。』



そう言って私を思いっきり抱きしめる腕が痛くて…


現実なんだ…って実感する…。




あんなに会いたかった亮太が…


会ってはいけないと思っていた亮太が…


今、私を抱きしめている…。


私はそんな現実に…ただひたすら涙を流すしかなかった…。