言葉をいったん切り、しるふが自嘲的にほほ笑む

「海斗がドイツに行って、皮肉だけど海斗がそばにいないってことがどんなことか思い知らされました」

その微笑みには少し寂しさがある

「後悔してる?海斗君について行かなかったこと」

あるいは海斗を止めなかったこと

秋穂の澄んだ声に、しるふはゆっくりと首を振る

「後悔はしてません。海斗には自分の決めた道を進んでほしい。その重荷にはなりたくないんです」

でも…

「でも、少しだけ、会いたくなります」

あの逞しい背に

優しい瞳に

力強い腕に

落ち着いた声音に

逢いたくなる

わかっている

つらいのは寂しいのはしるふだけではない

しるふを残してドイツに行った海斗にだって、たぶん何気ない日常に、ふとしるふを想うときはあるだろう

心の片隅に不安を覚えることもあるだろう