あの時も、これからも

「ここ空いてる?」

食堂で食事をとっていると視界の隅に白衣が見えたと同時に、上から声がかかった

反射的に顔を上げるとそこにいたのは、160㎝と小柄な、けれどなめてかかると必ず痛い目を見る春日部桃花だ

どう見たって空いてるだろう、と思っていると、桃花もこちらの返事を待つ様子もなく椅子を引いて向かい側に腰かける

彼女、春日部桃花は、ドイツに来て知り合った日本人

はじめに話しかけてきたのは桃花の方

海斗は日本ではちょっと(本人談)有名なので、桃花は海斗のことを知っていて話しかけてきたらしいが、海斗としては自分を知っていた、しかも話しかけてきたという時点で頭の中でシャッターが下りる

そうやって自分に近づいてきた女は数知れず…

けれど桃花は別に海斗に下心があったわけではなく、ただ単に興味本位に(それも失礼な話だが)話しかけてきたらしい

だからこうして桃花が向かい側に腰を下ろしてもそのまま食事を続行しているのだ

「ねえ、」

お互いに無言で食事をしていたら、お盆の上のご飯とおかずを半分ほど腹に収めた桃花が、口を開いた

何、と視線だけ向ける

「事務の子、振ったって?」

たが、こういうところ一応女らしい…