その瞳に迷いも戸惑いもなかった

信次も海斗がしるふを置いて行くことには驚いた

でも信次は海斗がしるふを医者として育て上げたことを、今もしるふが名声や地位を求める医者の目に留まらぬよう守っていることを知っている

ただ患者を助けたいとその思いで動く医者であり続けてほしい

論文とか技術とかそんなものに捕われず、その瞬間最良だと思った処置を迷わず選べる医者であってほしい

海斗の気持ちはよくわかる

自分も海斗くらいの年齢の時は周りの思惑や期待に振り回された

自分がつかめないからこそ、しるふには、あの真っ白な存在にはそうであってほしい

だからたとえ一年間離れることになってもしるふを日本において行くのだろう

それくらいで壊れる想いではないと海斗もしるふも確信しているから

そんな簡単に語れる4年間ではない

共に過ごした時間と乗り越えた出来事がしるふを海斗にその自信を与える

「ま、海斗は考えないしに動く男じゃないけどさ」

しるふと海斗がそこまでお互いを想いあっていることは正直うれしい

でも一年か、という思いは消えない

頼むから何事もなく速く来年になって海斗がひょっこり帰ってきて、そして無事結婚という形で落ち着いてほしい

そう心から切に願う沙希はふと諦めたように嘆息した