衰え、というものは何物にもつきものだ、と思う

けれど今のところ黒崎病院にはその影は忍び寄ってはいない

ますますの躍進を見せる黒崎病院

患者に寄り添ってこそ最高の医療

その信条を曲げることはなさそうだ

最近では表だって動いているのは医院長ではなく、

数年前、ドイツでの留学を終えたすぐ後に就任、婚約発表をして医療界を震撼させた現、副医院長

今でも暇があれば、というか暇を作って患者を診ている現役の医者

その業績たるや数知れず

今でも各方面からアプローチがあるとかないとか


「副医院長、奥さまがお見えのようですよ」

文字通り音もなく部屋に入ってきた秘書・聖が笑顔で告げる

その視線の先にいるのは、もちろん副医院長に就任した黒崎海斗

海斗が就任してから設けられた副医院長室は、その部屋の主が主だけに閑散としている

医院長として名を馳せた信次は、最近は隠居気味

それに比例するように海斗の仕事が増えていくことが最近の悩み

聖は信次の秘書・矢吹の知り合いで、有能な秘書だというので採用した

ERにふらりと旅立つ海斗に笑顔で秘書とは思えない小言を言う以外は、

とても優秀で役に立つと海斗は思っている