それは、望月が突然ドイツに来た日の昼

食堂で一人、和食を突いていた時のことだ

「ねえ」

ガタッと椅子を引いて座りながら望月は、先ほどと同一人物とは思えない落ち着いた声で呼んできた

視線だけ動かして続きを問う

「どんな人なの?その人」

さっき聞こうとしたのにさっさといなくなるんだもの

「意地っ張りで強情で我がままで、寂しがり屋でそのくせ泣き虫のどうしようもない奴」

本当にこいつは猫を何匹飼っているんだ、そう心の中でぼやきながら答える

抑揚なく答えた海斗に、望月が小さく眉を寄せる

「それ、本気で言ってるの、それとも冗談?」

「本気」

「よく付き合ってるわね、そういう面倒な女嫌いじゃなかった?」

「望月よりは面倒じゃないさ」

しれっと言い放つ海斗に望月の冷めた視線が飛ぶ

「ま、いいわ」

がたっと椅子から立ち上がる望月の背に海斗は静かな視線を送り、

「しるふに会ってもいいが、あいつはそう簡単に揺らぐような小さい女じゃない」

「一年も自分をほったらかして留学した男のことでも?」

それでも。それでも揺らがないしるふだからここまで大切にしてるんだ

そう言い切った海斗の言葉が、印象的だった