あの時も、これからも

「私、方向音痴じゃないんだけど」

タクシーに乗るほどの距離じゃないじゃないか

思わずそうつぶやいたのは、海斗のアパートがあまりにも病院から近かったから

広さとかきれいさよりも実用性を重視する海斗のことだから近くに部屋を借りているだろうこは容易に想像が出来た

こんなに近いなら口で説明してくれてもたどり着けたと思う

タクシーに乗る方が恥ずかしいわ

キャリーケースを下しながらふと思った

信用がないのか、信用よりも心配のほうが勝っているのか

はたしてどっちだろうと送られてきたポストカードと同じ建物を見上げる

古めの扉を開いてすぐにある螺旋階段を上った三階

その一番奥にある「Kurozaki」と書かれた部屋

キッと音を立てて開いたドアの向こうには白を基調とした部屋が広がっている

ひんやりとした空気がほほを撫でる

時計すらかけられていない壁

忙しくて片づける時間がないのか、すでに荷造りをしているのか部屋の隅に3つほど段ボールが重なっている

キッチンもつい最近使ったであろう食器が少し出ているだけですっきりとしている

唯一存在感があるのが本棚だ

リビングとベッドのある空間を仕切るように備わっているそれに唯一何冊かの本が並んでいる