「それもある、かな。海斗がいないだけで相当な負担なのに、私まで休暇もらうなんてできないよ」

「そんな顔で仕事される方が迷惑よ。しかもあの医局長さんなら快く送り出してくれると思うけど」

はあ、とため息をついてから紗雪がはっきりという

「待っててくれって言われたこと気にしてるなら、それは意味合いが違うと思うよ。海斗君が待っててくれって言ったのは、変わらずに日本にいてくれってことでしょう?来るななんて一言も言ってないじゃない」

切なそうに伏せられた瞳を見ながら、ああ、これは相当限界だな、と思う

海斗だって一年間、しるふが何もなしに乗り越えられるとは思っていないだろう

「仕事も何も気にしなくていいからさっさとドイツに行きなさい。そしてあと半年、また頑張ればいいじゃない」

そんなつらそうにして待たれても海斗君うれしくないわよ

そう言い残して、紗雪はトイレに立つ

紗雪も速人もいない部屋でしるふは、そっと抱えた足に額を押し付ける

「……海斗…」

ぎゅっと握った手に伝わるひんやりとした感触

ふと顔を上げて右手のペアリングを見つめながらしるふは小さくつぶやいた

「もう、無理だよ…海斗」

限界だ、と素直に思う

これ以上、張り詰めた糸を切らずにいる自信がない

行こう、ドイツに

はあ、と息を大きくついてからしるふは決心する

海斗に、逢いに行こう