「今電話してもさ、海斗にいらない心配かけると思うから最近はメールばっかりかな」

紗雪はふっと瞳を細めると

「あんたさ、ドイツ、行って来たら?」

しるふがばっと顔を上げて驚いたように見返してくる

「自覚ないだろうからはっきり言うけど、誰が見ても相当参ってるって顔してるわよ。そんなんであと半年持つわけないじゃない」

10歳の秋に両親を失ったしるふがこの時期になると無意識的に元気をなくすのを知っている

しかも前に担当した患者を助けられなかったことを相当引きずっていることも見ればすぐにわかる

医者ではない紗雪には、今のしるふを元気づけられることはできない

つらかったね、なんていっても意味のないことを知っている

研修医の時からそばにいる海斗が最もその線は影響力があることも

そうでなければ今でも医者を続けてなんていないだろう

誰よりも傷つきやすくて意地っ張りのしるふが

潰れずにいるなんて、それだけ海斗が支えたということだ

「今日さ、知り合いにドイツ行のチケットもらったんだ…」

「だったら何迷ってんのよ。さっさと海斗君に逢いに行ってきなさい」

紗雪の言葉に、しるふがうん、と小さくつぶやく

「何気にしてんのよ」

仕事のこと?