もし、しるふが今保っている均衡を崩したら

きっとここにいるメンバーでは手におえない

発作を起こしたしるふを落ち着かせられるのは、しるふが安心できるのは

海斗だけだ

それが分かっているから神宮寺は、どうか均衡を崩さないように

しるふが思いを消化してくれることを祈るのだ


「……」

階段を上がったしるふは、医局に続く廊下で足を止める

思い出すのは、桜の通夜だ

両親以来そうそう通夜なんて行ったことがなかった

行こう、と決めたのは自分だけれど行って少し後悔した

両親の通夜を思い出してしまった

それでも張り詰めているのにさらに負荷をかけてどうするんだ

しるふの机の引き出しには、桜の両親から受け取った写真が入っている

退院するときに撮った桜としるふの写真

涙を浮かべながら両親は、しるふと出会えたことであの子は楽しそうに毎日を送るようになったと

頭を下げてくれた

黒崎先生と立花先生みたいになるんだってよく言ってました

そうハンカチで目元を抑えながら言った桜の母親

自分は何もできなかったのに

やるせなさだけが降り積もる