18時になった瞬間、わたしは光の速さで退勤した。


制服を着替えて、制汗スプレーで汗臭さを消し、事務所に行くと沢田さんが椅子に座って本を読みながら待っていた。



「お疲れー」



沢田さんがわたしの顔を見て、ニッと笑いながら言った。



「お疲れ様です」

「疲れてない?予約した時間までまだあるから、ちょっと休んでから行こっか」

「はい」



沢田さんが椅子をひとつ、自分の隣に引き寄せて椅子をぽんぽん叩きながら「座んな」と言った。


さりげなく自分の隣に座らせるそのやり口が、ときめきを通り越して恐怖さえ感じた。




女慣れしすぎ…。
わたしとはあまりに住む世界が違う。





その椅子を、ほんの少しだけ沢田さんから距離をとるようずらしてから座ったのは、ほんの少しの抵抗心だった。