注文したものにもほとんど手をつけないまま、ふたりはカラオケボックスのフロントに伝票を渡す。 恭司が財布から一万円札を出す。 綾はそれを恭司に返そうと差し出す。 「今日は、ほら、賞金で遊ぼうってことだし、いいよ」 「オレに出させて」 恭司はそのお金をまた、カウンターに戻す。 「でも」 「これくらい、させてよ」 恭司の少しむくれた表情に、綾は心が穏やかになっていくのを感じて、素直に自分の財布を仕舞った。 「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」 「いえいえ」 恭司は満足そうに微笑んだ。