(結婚指輪だ……)
綾の視線の先は、左指の結婚指輪を一点に見つめ、顔を徐々に左へ動かしてゆくと同時に黒目が目頭によっていき、レンズとキレイに重なった。
「こうすると、戻るんだよ」
綾は両手を顔の前で交互に開いて、右目と左目の視界を確認していた。
恭司は綾を見て、そしてうな垂れる。
「うん、もう大丈夫かな?」
恭司が顔をあげた瞬間、綾は両手を同時に開いて顔を出し、微笑んで見せた。
恭司の表情が遣る瀬無さを隠し切れなくなっていた。
恭司はいきなり綾の両手を掴み、その唇にキスをした。
綾が目を開いたまま、驚きを隠せず、戸惑って恭司の手を外そうと腕に力を込めた瞬間、恭司はその手を外した。
そして太ももに肘をつき、両手で顔を覆う。

