「今起きたよ絵恋さん、ちょっと待ってね」


絵恋にぶつからないように静かに扉を開けた。覗かせた絵恋の目は、腫れぼったく真っ赤で充血していた。


「突然ごめんなさい……秋雄さんがいなくなった理由を弟の信介さんなら知っているのかと思って――ねぇ、なにか知っているのなら隠さず教えて欲しいの!」


扉を全開すると、青白く病的な絵恋さんがお盆に小さな土鍋を載せ立っていた。


「ごめん。知っていたらなんでも話すよ……それ、どうしたの?」


「これ、私がお粥を作ったの……お母様が食べられそうだったら下へ来てって。お肉料理を作るそうです」


「そう……いい香りがするね、態々ありがとう。重かったでしょう。これ、一旦部屋に置いてくるね」


 お盆を受け取り、机の上に置いた。その間に次の言葉を考えていた。


本当は忘れられるように仕向けた方が絵恋さんの為になる。でもどうやって伝えれば……? 難しい問題だった。


「お母様とお父様は今日秋雄さんが帰ってこなかったら、明日警察に捜索願いを出そうという話で……でもその前に信介さんにも色々お話を聞きたかったの」


扉から話し掛けてくる絵恋に仕方なく振り返った。


「……本当になにも分からないんだ」


悲しい瞳をする絵恋さんに胸がチクチクと痛んだ。


「そう……でも思い返してみれば奇妙なことが沢山あったわ? 双子の女の子が現れたり、停電が起きたり――親友の信子も行方不明で見つかっていないのよ? なんで私の周りばかり、変な事が起きるのかしら――」