その手紙は、懐かしい人からのものだった。少し乱雑で読みにくい文字は、私の兄の字だった。
 あまりのことに、私は感激して涙が出そうであった。不思議と手紙を読み進めるうち、兄の声が私に語りかけてくるようだった。
 私の脳裏に、あの不器用で寂しがりやの兄の姿がよみがえってきた。食事の時の会話、喧嘩した日、勉強を教えてもらったこと、風邪を引いた時珍しく心配してくれたこと、母と私の大量の買い物に呆れ返っていたこと、そして母と一緒に家を出て行くとき一方的に兄を非難して別れてしまったこと。
 ごめんねと言えず、離れ離れになり後悔して生きてきたこと。
 私の目から流れる涙は、心を温かく洗い流した。手紙の声が消えていく。最後に兄の言葉が、私の心に響く。
『あの時はごめん』
 会いたい。あってちゃんと伝えたい。
「ありがとう、お兄ちゃん」と

「手紙の声」完