私は彼に愛されているらしい2

「そういう子って結婚したら辞めていく子。寧ろ高給取りと結婚するために入社したって言ってた。入ってる派遣の子も半分はそうかな。…必死になって働いているなんて馬鹿みたいって言われたこともあってさ。」

むこうは冗談のつもりだったかもしれないけど胸に刺さって痛かったと有紗は続けた。皆が皆そう思っていた訳ではないだろうが、どうしても敵意だけは鋭くえぐって心に残る。

「男を囲っていやらしいって言われた時はさすがに切れた。こっちは差別みたいな扱い受けてんのにどう見たらそんな考えになるんだって。」

女であるが故に設計士になったとしても長くは勤めないと思われて教育すら投げやりにされた時もあった。それを思い出して有紗は複雑な表情を見せる。

「前にも言ってたな。」

大輔の言葉に有紗は顔を向けることなく苦笑いをした。

明らかに男性社員との扱い方が違うことに気が付いた有紗は行き場のない悔しさを大輔にぶつけたことがあったのだ。それは教育期間が終わって正式に配属された後も変わらなかった。

「部署が悪かったんだって。」

「そうだね。」

大輔のいうように配属された場所が悪かったのだと今なら思える。それは新しく配属された場所で東芝や舞に出会えたからだ。

今更ながらも有紗に教育係がついているのは本来教えられているべきことであろうものを教えられていなかったから、それに気が付いた上司が東芝というモンスター並に出来る優秀な設計士をあててくれたのだ。

遅れを取り戻すのは並大抵の苦労じゃないが、それでも有紗は今の環境に感謝している。あのまま泣き寝入りして辞めなくてよかったと過去の自分を何度褒めたか分からなかった。

「でも必死で手にした学歴がこんなに邪魔になるんだなんて知らなかった。」

そして思い出した舞の言葉がまた胸にのしかかり気持ちが沈んでしまった。

「舞さんに言われたの。理系女は恋愛にタンパクかと思ってたって。」

それは世間で多く思われているイメージだ。そんなもの相手に戦う気にはなれないから諦めていたけど、やはり空しく感じるものは仕方がない。

「私はタンパクにならないように必死なだけ。」

あの時の舞に弁明するように呟いた。

「確かに研究に夢中で恋愛よりも自分に没頭していた人も多かったけど、私だってそれなりに大学生活も楽しんでた。友達と遊んだり、彼氏がいたり。…大輔たちともよく遊んだよね。」

「そうだな。」