私は彼に愛されているらしい2

有紗の左手には光る確かな存在がある。

新たな移動先を告げられたあの日、チーフは有紗が立ち去る間際にある忠告をしていた。

工場に行く機会が無くなったのならその指輪は然るべき場所にはめておいた方がいいのだと。

有紗はその言葉に従いその場から指輪を元の場所に付ける様にしたのだ。

場所は勿論、左手の薬指。

いま有紗の左手にも当然の様にあって僅かに光を放つその指輪は確かに沢渡の目に映っていた。

そして同じような輝きを放つ有紗の瞳へと視線を移す。

まっすぐ向けられる視線には怯えは無く強さしか感じられなかった。

おそらく彼女は精神的に強い、しかしそれは知らないが故の強さでもあると沢渡は思っていた。

だが今、彼女はこの場でこの状況で間違いなくこの先の展開を分かっているだろう。

それでも彼女の目も気持ちも強いままだった。

諦めを感じさせない眼差しは何を思うのか探っても見出せない。

ただ分かることは敵わないという白旗を振ることしか出来ない自分の弱さだけで沢渡は目を伏せていく。

「…強いな。」

吐き出すようにして苦笑いをすると沢渡は脱力しながらゆっくりと体をシートへ沈めた。

また最初と同じ様な距離に戻っていく様を有紗は少し戸惑いながら見守る。

行き場所を探して沢渡の手がドアに触れ窓を掠め、ステアリング上部を握りしめた。

「もっちー。」

前を向いたまま沢渡は有紗を呼ぶ。

「…はい。」

暫く聞いていなかった有紗の声が響いて何故か安心から沢渡は微笑んだ。