私は彼に愛されているらしい2

何故手を握られたかは分からないが確かに生まれた違和感に有紗は妙に冷静になった。

「いえ。私冷え性なんでこんなもんですよ。」

動じることなく答えて沢渡の手をあえて剥がすことはしない。

このままでもいいなんて思いは無いのだがすぐに離れたいほどの嫌悪感もないのだ。

しかし。

「おっと。」

信号が変わり2人を乗せた車はゆっくりと速度を落としていく、その為にギアを変えなければいけない沢渡の手は有紗から離れていった。

この時ほどMT車のありがたみを感じたことはない。

有紗は握られていた右手を自身の左手の方に寄せて沢渡との距離を少し置いた。

そして頭の中では考えがめぐる。

「残念、手を離しちゃった。あれ?右手が遠いな。」

「運転の邪魔ですからね。」

微かに笑いながら有紗は沢渡の視線をもかわす。

そしてまた車は走りだし沢渡は少しの沈黙の時間をおいてから再び口を開いた。

「もっちーさ、やっぱちょっと無防備だよね。男の車にのこのこついてきてさ。」

聞こえてきたのはいつもよりも低い沢渡の声、含んだような言い方にどう答えるべきか悩み有紗は口を開かなかった。

いつもとは違う色を持った声と言葉が有紗の神経を研ぎ澄ませていく。

「どうすんの?俺がこのまま人気の無いところに連れて行っちゃったら。」

まるで沢渡の言葉に信憑性を持たすように車外の景色は少しずつ暗闇へと誘われていった。

大通りでは無い道を通っているのだから当たり前だが、有紗が住む家の近くにある駅へは大通りが一番早く辿り着く筈なのだ。