私は彼に愛されているらしい2

沢渡は短くかわすように答えるとそのままステアリングを操作して愛車のギアを変えながら運転を始める。

深く沈む形のシートは今まで乗り慣れていたどの車よりも視線が低い、多分大輔の車よりも低いのではないかと有紗はぼんやり考えた。

「昼間は温かくなってきたけどやっぱ夜は寒いね。服とか困らない?」

「そうですね。まだまだ上着は手放せません。」

いつものように変わらない会話、変わらない態度、沢渡の好みであろうアップテンポな曲がステレオから重低音を響かせて有紗を包み込む。

鼻を掠めた車内の匂いは沢渡が愛用している香水だった。

ここは本当に沢渡のテリトリーなのだと改めて気付かされ有紗は少し身構える。

「もっちーさ、次の車両はどう?やっていけそう?」

「次ですか?」

聞き返した言葉に沢渡は前を向いたまま肯定の言葉と首を浅く頷かせた。

「不安はありますけど、楽しみの方が大きいかもしれません。気を引き締めながらやっていこうかなって思ってます。」

行き場所がなく辿り着いた場所ではない、少なからず東芝からの期待に応えられるように一生懸命やっていこうと緊張していた。

ミスが無いように怠慢にならないように、初心に帰って取り組もうと決めたのだ。

「東芝さんにいつまでも頼っていられませんしね。」

「…そっか、頼もしいな。っていうか空調まだ効かないな、寒くない?」

寒くないです、そう有紗が答える前に沢渡の手が伸びてきてカバンの上に乗せている有紗の手を掴んだ。

沢渡の左手の体温が有紗の右手に移ってくる。

「手冷たい。寒いでしょ。」